御前が語る、小説「妻は、くノ一」全10巻の感想記事なのさ
2013年 09月 12日
「妻は、くノ一」 風野真知雄 著
角川文庫(全10巻)
リューザキ弾正に代わり、御前こと、平戸藩前藩主松浦静山公が、
小説「妻は、くノ一」の感想記事をお送りします(爆)
星と海にしか興味のない、変わり者と噂の平戸藩御舟方天文書物係の雙星彦馬の元に、
ある日、清楚な女性が嫁いできたのさ。
夢のような一か月のあと、妻の織江は突如失踪。
実は、妻の織江は、御庭番配下のくノ一であったのさ
佳品ドラマに惹かれて、リュー弾は、原作も手に取ってみたそうな。
全10巻。ドラマ化されたのは、中盤までなのさ。
「甲子夜話」から比べると、短いの。しかし、ちゃんと素敵に纏められているのさ。
リュー弾は、彦馬と織江のその後が知りたいくなり、10巻かなりの速度でで読んだそうな。
その後、物語世界の人々と別れ難く、もう一度、最初から読み直したとか。。
「ドラマを先に見てからの読書だったのですが、
原作を読んで、ドラマとの乖離にがっかりすることなく、
また、逆に、ドラマの取捨選択肉付けされた世界との違いに落胆することなく、
恐らく、ドラマも小説も両方楽しめる作品だと思います」 と、言っておるが、
森下屋敷の、あぶな絵、あれは、わしの趣味ではないからの。
雁二郎(@ドラマ版)の奴め!・・・と、ちょっと、わしは苦笑したぞ。
「風采のあがらない二十代後半の藩士の元に、幕府隠密が何故来てしまったのか(爆)
それは、ある意味間違いだったのですが(連爆)
妻の織江を追って、彦馬が江戸に出て来て、平戸藩前藩主松浦静山と出会い、
その『間違い』が、真実となっていきます。
異なる者を排除しない静山は、彦馬の気質を愛で、上手に彼を引き立てて行きます。
筋立てについては、いずれ、本を手に取ってください、ということで、
甘利、触れないでおこうと思います」 だとさ。
暇があれば、「甲子夜話」と共に、読むがいい。無理にとは言わんぞ。
「この小説の人物の魅力について少し、書きたいと思います。
元平戸藩主・静山の酸いも甘いも知り尽くした、
懐の大きな、それでいて、くだけた人物像が魅力的です。
ある意味、乙女心を持った(爆)、他の男性登場人物たちの中で、数少ない、
男気のある登場人物です」
・・・照れるではないか。乙女心と言うのは、純な気質ということかの。
わしにも、あるとは思うが、乙女な松浦静山では、恰好がつかんからの。
くだけた御前に生真面目な彦馬の幼馴染の西海屋が、彦馬に寄り添います。
あと、ドラマ版ではかなり改変されていた、
八丁堀の同心の原田(彼は、乙女ではなく女々しい部類ですが)も、彩ります。
ああ、あやつは、確かに女々しいのう。腕はたつのだがな。
ドラマ版の方が、ちと好感が持ててしまうかもしれんな。
主役の彦馬は、頼りなげでしたが、織江を求める二年間の中で強くたくましくなって、
いきますが、基本、純で一途な、青年です。逆に、ちょっと強くなり過ぎ?
小説とドラマの大きな違いじゃの。小説版では、わしから柔術を習い、
子供たちを守ったり、事件解決のいざこざの中で、結構、活躍しておるのさ。
脇道にそれますが、彦馬がよく話題に出す、野々尻泡影先生のモデルは、星の翁・野尻泡影ですね。
モデルというには、ネーミングが直球すぎますけど(笑)
1930年に発見された、惑星Plutoに、「冥王星」という和名を付けた人物です。
(冥王星自体は、2007年に準惑星になりますが)
ちなみに、彼の弟・大佛次郎は、「鞍馬天狗」の作者です。
一度だけですが、御前が覆面を付けて、颯爽と活躍する部分は、そういった要因?(^^;)
そうなのか?わしにしては、外連味芝居っ気たっぷりのシーンではあったが。
鞍馬天狗か・・・ふふふ。頭巾に中敷を入れてピンと立たせるのは嵐寛十郎っぽいな。
この小説に出てくる女たちは、けっこうしたたかで現実的です。
「美味い飯を炊く」織江。
そういう凝り性の性格と思いきや、「毎日だったらやっていられない。
任務だからこそ、出来る。毎日できる女がいれば自分が嫁にしたいくらい」
居酒屋の、聞き上手な包容力のある女将(実はくノ一)
その「包容力」も演技。こんな女は、そうそういない。男の幻想。
この作品には、殿御に「便利な」女性キャラは一人もいません。
そこも、魅力のひとつです。
織江と雅江。複雑な愛憎相乱れる親子関係も丁寧に描かれていたと思いました。
そうだのう。けっこう、わしすら手の中で踊らされていたような時もあるように思えたしの。
まあ、そこが女人たちの奥深い魅力なのさ。
したたかな女たちに比べ、男たちは、前述のように、基本、乙女心を持った連中です(爆)
御庭番の川村様も、鳥居耀蔵も。
鳥居耀蔵にいたっては、様々な小説・映画・ドラマに描かれてきた、
悪の総帥(^^;)鳥居耀蔵の、そのキャラクター史上かつてない、
イタイ乙女な鳥居耀蔵に描かれており、涙と苦笑が漏れて来てなりません。
本当に、絶妙な気持ち悪さです(爆)
ドラマでは、未登場となった訳ですが、それが一番残念だと思えます。
親友・林述斎の息子じゃったが、「残念な男」であったの。
ドラマ版未登場も「残念」だったがの。後の「妖怪」の片鱗は、それなりに見えておるな。
その頃、わしはおらんがの。
そうそう、中津藩の湯川殿の不在も、残念な仕儀であった。
ドラマでは、台詞に出てくるのみだったのう。
逆に、ミズタク萌えの前には、結構、かわさま萌えが席巻しておったな。
そして、特筆すべきは、織江を追うため、隠居を目論んだ彦馬が、
急きょ、遠縁の親族・双星家から養子に迎えた、雙星雁二郎です。
壮大な一族の秘密を抱えながら、その泰然自若とした風情と俗っぽさ。
彼の魅力は書きつくせず、宴会芸への飽くなき探求心は、言語道断(汗)
雁二郎主人公のスピンオフ小説を、切に希望いたします、風野先生!
まことに奇妙な奴だのう、あやつは。時には、腹に据えかねることもあるがの。
あやつの吉原豪遊の後、わしが、どれだけ、暫時の質素倹約生活でしのいだか・・・
いかん。あやつのことは、長く語りそうだの。わしもスピンオフ、希望なのさ。
物語は、大団円と行くかと思いきや、文字通り波乱万丈の顛末があります。
その後、御前が夢見た開国は、「あっという間」に訪れる訳ですが、
その「あっという間」は、短くても、決して平坦でないことは、
彦馬の「二年間」を知っている者ならば、分かるはずです。
「開国」までに、わしの死後、三十年かかったが、倒幕は、彦馬の二年間なみに、
短くも激烈であったのう。
あの時期、もし、わしが生きておれば、どのような行動をとっておったかの。
鞍馬天狗になっておっただろうて? 雁二郎、変なことは申すな。
そして、続編「妻は、くノ一 蛇の巻」、「姫は、三十一」へといざなわれる訳ですが、
喜んで、そちらにも行ける、作品です。だとさ。
わしも、喜んで、そちらに参るぞ。